憲法っ!~公務員・刑事施設収容者・未成年の人権に関する判例
やっほー。今回も憲法に関するまとめです。
今回は特殊なケースの人権に関してまとめていきます。
さて突然ですが、公務員は人権が一部制限されています。なぜでしょうか。
かつては、「特別権力関係論」が唱えられ、法的根拠なしに「特別権力関係内部」の人権を制限可能だとされていました。言うまでもなく、現在は支持されていません。
現在の考え方は、憲法のこの規定に拠るものとなっています。
全体の奉仕者であるので、その奉仕に差し障る部分に関しては人権を制限されます。
後述しますが、全逓東京中郵事件判決では次にように裁判所は述べています。リンクもあるので、ぜひ原文を読んでみてください。
国民生活全体の利益の保障という見地からの制約を当然の内在的制約として内包しているものと解釈しなければならない。
では、判例の紹介です。
賃上げを要求したものの当局に拒否された全逓信労働組合が全国の支部に対して職場大会に参加するよう要請し、東京中央郵便局職員がこれに参加したため、捜査当局が郵便法違反の疑いで組合幹部を捜査・起訴したもの。公務員の労働権に関して争われた。
(判決)労働争議の禁止規定は違憲ではない。
- 合理的で必要最小限度の範囲に留める
- 国民生活に及ぼす重大な影響を避けるためやむを得ないとき
- これらの制限に見合う代替策を満足すること
などを挙げています。
公務員の争議行為を一律に全面禁止とする国公法98条5項、110条1項17号が28条に違反しないのかが争われた。
(判決)国公法規定は28条に違反しない。
- 28条労働基本権の保証は公務員にも及ぶもので、公務員に対して労働基本権を否定することは許されない。
- 公務員の地位の特殊性と職務の公共性を理由として必要やむを得ない限度で公務員の労働基本権に制限を加えることには十分合理的な理由がある。
公務員の政治活動を禁止する国公法規定は、公務員の政治活動の自由を侵害し21条に違反しているとして、国公法規定の違憲性を争った事件。
(判決)国公法及び同規則は21条に違反しない。
- 公務員の政治活動の禁止規定は、合理的で必要やむを得ない限度に留まるものである限り許容される。
- 合理的で必要やむを得ない限度に関する判断基準は、
- 規制目的の正当性
- 規制目的と禁止される政治的行為との合理的関連性
- 政治的行為の禁止により得られる利益と失われる利益との均衡
の観点から判断される。
- 目黒事件(最判平24.12.7)
管理職的理地位になく職務に裁量を有していない公務員が、職務・所属組織とは無関係に、また公務員として認識され得る態様でもなく行ったビラ配布行為が国公法が禁じる政治行為に当たるか否かを争った事件。
公務員として認識され得る態様で行っていないこと、職務や所属組織とは全く無関係に行ったことなどから、公務員の職務遂行の政治的中立性を損なうものとは言えず、国公法にいう政治行為に当たらないとされた。
- 世田谷事件(最判平24.12.7)
管理職的地位にあることや職務内容に鑑みれば、政党機関紙の配布行為という特定政党の積極的支持を行うことは、勤務時間外であったとしても、公務員の職務遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる。
次に、刑事施設収容者(在監者)の人権に関する判例です。
拘留中の被告人が新聞を購読していたところ、よど号ハイジャック事件に関する記事が拘置所長により全面的に抹消され、このことが被告人の「知る権利」の侵害であると争われた。
(判決)当該記事を全面抹消した拘置所長の判断に裁量権の逸脱又は濫用はない。
- 収容者に対する検閲や閲読の制限に対しては、施設内の規律・秩序の維持上放置できない程度の障害が生ずる蓋然性が必要である。
- 蓋然性があったとしても、制限は必要最小限度にとどめるべきである。
- 本件に関しては、拘置所長の判断には合理的根拠があり、権限の逸脱濫用はない。
→収容者に対する閲読制限や検閲が許されるのは、「制限かけないと施設内の秩序がやばい」といえる十分な可能性が必要ということです。
最後に、未成年者の人権に関する判例です。
有害図書の自動販売機への収納を禁止し、違反した場合には処罰を規定した条例が、表現の自由の侵害となり21条1項に違反しているとして争われた事件。
(判決)21条1項に違反しない。
- 有害図書が、判断能力の未熟な青少年の性の育成上、価値観形成に悪影響を与えうるものであることは社会共通の認識である。
- 自販機販売は目につきやすく、対面販売よりもハードルが低い上、昼夜問わずに購入できる。
- 条例による自販機販売の規制は、成年にとっては有害図書の流通を幾分制限しうるものになるが、それでも青少年の育成環境を浄化するうえでは必要やむを得ない制約である。
→太文字の部分が規制により得られる利益と失われる利益の比較衡量部分です。
私立高校でパーマを禁止する校則に違反したことを理由に退学処分を勧告したことは13条に違反するとして争われた事件。
(判決)民法1条、90条に違反しない。
なぜ、憲法違反に関して争っているはずなのに、結論が民法に関するものなのかというと、本件は、私人間の争いだからです。憲法は公法といわれる属性を有しており、これは国家と国民の関係を規律します。一方で民法は私法と言われ、私人間の関係を規律します。
今回はここまで。